世界遺産の眺望 切り裂く電線


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[富士からFujiへ]山麓の景観(1)

 「なぜこんなに電線が多いのか」。10月18日、仏シャモニー・モンブラン市のジャン・ルイ・ベルディエ副市長は、姉妹都市・富士吉田市内を巡る車中で市職員に尋ねた。市街地に差し掛かると、富士山を切り裂くように電線が縦横に走る。山岳観光の先進地から訪れた“世界基準”の目には異様に映った。

全体把握できず

 国や山梨、静岡両県も世界文化遺産「富士山」の保存管理計画に電線地中化の推進は明記している。山梨県は2011、12年度で河口湖大橋南側などの県道や県管理国道4.9キロで実施。忍野村も忍野八海周辺で進め、富士河口湖町は河口湖総合公園沿いの町道約800メートルで計画するなど動き始めている。

 ただ、富士山の遺産範囲は山梨県側だけでも3万ヘクタール以上。地中化したのは一角にすぎず、道のりは遠い。さらに保存管理計画でうたう地中化延長の進行確認も「全体把握できておらず、関係自治体が断片的に取り組んでいる状況」(県富士山保全推進課)だ。

 「地中化には確かに予算や労力がかかる」。県教育長を務めた松土清都留文科大特任教授はそう話しながらも、「やろうと思えば改善できる問題だけに意識が問われる」と強調。「そこが欧州の先進国の景観と決定的に違う点でもある」とし、世界の宝にふさわしい景観に不可避の条件として挙げる。

熊野の取り組み

 標識や案内板のばらつきも目立つ。商業看板は昨夏、国際記念物遺跡会議(イコモス)の現地調査前に一部撤去したが、雑多な印象は今も変わらない。北口本宮冨士浅間神社の参道入り口付近には、国や市などが設置した形の違う案内看板が複数残る。イコモスが勧告で「個々の構成資産は一つの大きな『絵』の要素」と説明した一体性にはほど遠い。

 04年に世界遺産登録された熊野古道も、かつては同じ状況だった。古道の分岐にある標識は同一箇所に複数あり、和歌山、奈良、三重の3県にまたがる遺産には「市町村や県域を越えると、表示方法が違い戸惑うと指摘があった」